木版画(彫り)
浮世絵木版画は、江戸時代の出版物として、印刷の原点となったものである。版元というプロデューサーのもと、絵師と彫師と摺師によって総合製作された木版画は、浮世絵版画あるいは錦絵と呼ばれ、浮世(現世)の享楽を題材として、庶民が手軽に情報を得たり、娯楽として楽しむものとして定着していった。歌麿の美人画は、お江戸でうわさの美人のポスター。写楽の役者画は歌舞伎芝居のブロマイド。広重や北斎の風景画は、いわば庶民を度へ誘う絵葉書と言えよう。また、これらの作品が19世紀後半から20世紀初頭にかけてヨーロッパやアメリカに大量に流出し、印象派の画家たちに大きな影響を与え、近代美術の発展に決定的な役割を果たしたことも、有名な話である。
版木彫りの作業
伝統的な江戸木版画の版木には、桜の一枚板が用いられる。桜材は、木目が細かくねばり強く、耐久性に優れており、大量に摺り上げる浮世絵版画には最適の素材といえる。初めに版木の表面に、絵師の描いた版下絵を裏返しに貼り付け、そこに透けて見える版下絵の墨線に沿って小刀(彫刻刀)で切り込みを付けながら彫り上げて行く。特に美人画の髪の毛(毛割り)の部分は、技術的に最も難しいとされている。伝統的な木版画では、こうして出来た墨板(主板)を使って、色数分だけ摺られた校合摺(きょうごうずり)に絵師が色差しをして、彫師は色差しに従って色数だけの版木(色板)を彫る。現在では、すでに完成された絵画作品を元絵とすることが多く、その場合、元絵から色分けをして何枚の板に何色を彫り上げるかを決めるのも、彫師の腕の見せ所である。