江戸指物
指物とは、指を指すとか差し込むといったように、ある物が一直線に動いて内部に直入するという意味で、この事からほぞによって板と板、棒と棒、を組み合わせて物を作る技術により作られる木製品の事を指物と呼ぶようになった。そのほぞの所を仕口と呼び、使われる仕口は、隠し蟻組み継ぎ、三方留継ぎ等、何十種類もの方法があり、適材適所に使いわけている。製作工程としては、木材乾燥−作品の構想−木取り−木削り−ほぞ付け加工−加飾加工−組み立て−外部仕上げ−磨き−塗り−金物取り付けを経て完成となる。それ以前にあった技術・技法は江戸時代に確立され、武家用・商人用・江戸歌舞伎役者用等に分けられて、それぞれに特徴がある。使われる材料は、主に国内産の広葉樹で、桑・欅(けやき)・黄蘗・たも・桐・杉などが用いられる。どの素材の場合でも、杢目の美しさをどのように生かすかが職人の腕の一つであるが、今日では、美しい杢目を持つ材料を探すだけでもたいへんな事である。吟味した材料を生かし、外から見えないところほど技術を駆使して作りあげる指物も、住宅事情等の変化により少しづつ様変わりしてきている。技術/技法の伝承は、小さい歩みながら脈々と受け継がれて今日に至り、また、将来に向けて伝えられようとしている。使うほど暮らしになじみ、生活空間を彩ってくれる家具、それが江戸指物の大きな魅力である。
「抽斗タンス」 桐材 前桑 拭き漆
間口820mm 高さ710mm 奥行425mm
桐という軽く柔らかい材料に指物の技術を駆使して、正面に桑のアジロ、桑の引手を使い華やかさの中にも落ち着きのあるたんすである。指物では良く桑材が使われるが、江戸指物で使う桑は、主に島桑と呼ばれる伊豆諸島の御蔵島の桑が特に珍重され、固く粘りがあり、光沢・玉杢・根杢等、ほかにない味のある材料である。材料の入手困難は、桑ばかりでなく、他の材料も同様であり、加えて、アジロを編む職人も少なくなった現在では、人々の目に触れる機会も少なくなることと思われる。